撮影小物製作所
2RCA to XLRボックスの制作 その1

 
ここのところ、何かと現場で使うことが多いこのケーブル。
 
PA関係のラックから出ている録音用のステレオRCAを束ねて、キャノンXLRコネクターに変換するケーブルです。ケースは蓋付きですが、今まで問題なかったのでシールドは行っていません。俗にいう「抵抗ミックス」や「Passive Summing」の簡易型です。
こんなしょうもないケーブルがバックアップを兼ねて2,3本あります。
下の写真は初号機ですが、少しづつ抵抗の値が変えてあります。
 
しっかりしたホールや音響に気を遣ってある施設ではXLR出力があるのでミキサーにダイレクトに繋げることができ、このケーブルは必要ありません。
しかし、いつもXLR出力のあるところで仕事ができればいいですけど、そうもいきません。PAは会場に音を回すのが目的なので、ビデオの録音用端子は用意されないことが多かったりします。ライン音声をモニター用のヘッドフォン端子からとるのが精一杯のところもあります。
 
XLRですが、近年はオス出力メス受けが主流。放送で主流だったオス受けメス出しのミキサーに時代を感じるようになりましたネ。
 
 
RCA側に直列抵抗を入れミックス(簡易モノラル化)して、XLRオスコネクター出力。出力側の機器にもよりますが、出力保護抵抗が入っている場合がほとんどですので、この抵抗は入ってなくても成立する場合があります。
 
ただそちら側は人様の機器。出力のLRを単純にショートするようなことは少々気が引けますので軽い抵抗を入れてます。(抵抗なしのYケーブルで信号を束ねて問題があったのは今までで二回ほど。どちらも時間が経つとノイズが発生するタイプのトラブルでした。信号のループでしょうか)
 
正式にはグランドとの間にも抵抗を入れ、RCA側はアッテネーター回路とするのが「抵抗ミックス」的には正しいようです。
でもここではできるだけ簡易に済ませます。

抵抗挿入の目的はLRの回り込み防止です。
 
RCAアンバランスからXLR1,3番ショートのXLRアンバランスです。伝送形態を変更するのではなく、単なるコネクター形状の変換を目的としたケーブルとなっています。
 
通常ですとXLR側には収録側の音声ミキサー(600Ω受)が接続され、音量を整えた後ビデオカメラへと音声が出力されます。
 

 
ま、便利に使っているのですが、稀に問題が起こることがあります。
 
1. 繰り返して使用するうち、いつのまにか断線している。片側だけ切れているときはなかなか断線に気づかない。
 
2. ケースにシールドがなく、またXLRでありながらバランス出力でないので精神衛生上よろしくない。
1. は制作技術上の問題で、工作ベタも一因。頻繁にケーブルテスターでチェックしなければならない。
2. のシールドはアルミテープで出来るが、少しケースが狭く内部ショートする可能性がある。

また、XLRのバランス出力にはトランス以外の能動素子(オペアンプ等)は電源が要る。できれば、こうしたスタティックな機材に電源の世話はしたくない。電源が必要になれば、それに伴うトラブルが出る可能性があります。できたらケーブルつないでオシマイというシチュエーションが望ましい。
 

 
ということでケースを大きくしてRCAジャックとXLRオスを持った中間コネクターボックスの制作を考えました。
 
ナカナカ解決できないのはバランス出力というところ、でもこれはトランスが一つあれば解決する話らしいです
トランスってのも今や昔になってしまいましたね。
とはいえ我々の現場で使うロケ用ミキサーは入出力のどちらかにトランスが使われているんですが、昨今は知らない音声さんもいたりします。
ちなみにブロック図を見るとプロテック(日本ビデオシステム)の「フィールドミキサー」は入力側、シグマの「コンパクトミキサー」は出力側ということになっています。

一応トランスを使うことで外部機材やカメラなどのDC漏れやグランドループに起因する問題を担保しているわけですね。

お恥ずかしい話ですが、ミキサーを使わずに音声をカメラダイレクトにした現場で、48Vファンタムが漏れて相手側のPA機器が発振。その時は原因が分からず、ガンマイクのみの収録になってしまったことがあります。

問題の切り分けという意味で、ポータブルミキサーの重要性を改めて思い知らされました。

我々の仕事は相手側(音声供給側)の機材を傷めないということが鉄則となります。

 
工具ケースを見ると
SANSUIのドライバートランス、ST-71とST-75がありました。(写真はST-75。私が子供のころオーディオのトップブランドであった山水はすでになく、昭和54年橋本電気株式会社に技術、生産、販売機能全てが移管されブランド名が維持されています)
 
SANSUIのドライバートランスはコアが小さいのが難点ですが、入手性が良く安価なので私はグランドループのアイソレーション用に使ったりします。
多くの方がテストされていますが、周波数特性やひずみ率の関係から+4dB基準の大信号には向かないようです。
民生機の-10dB程度の出力までと限定すれば、一番目的にかなうトランスです。
(プロ用レベルの信号にはやはりタムラとかLUNDAHLとかの高級トランスが必要なようです。でも大きいです)
 
正直バランス伝送とかトランスとか、良くわかりません。
したがってこの記事と変換ボックス作成にあたり以下のサイトを参考にさせていただきました。
どちらのサイトも実践と理論のバランスが良好で、この業界では著名な方々なのだろうと思います。ありがとうございます。

平衡プロジェクト(Balanced Project)
http://www.op316.com/tubes/balanced/

音響・映像・電気設備が好き 
 linear_pcm0153
http://blogs.yahoo.co.jp/linear_pcm0153/32469277.html

(株)トライテック コラム: 続・オーディオ・トランスの話(他にインピーダンスの概念等、役立つ話満載) 
http://www.tritech.tv/column/trans3.html
 
ST-71は600:600Ωの1.1、ST-75は10K:600Ωで4.5:1の小型トランスです。ST-71は1:1ですからプラスもマイナスもなく前後につながる機器のインピーダンスだけが影響します。ST-75の10K受け600出しは魅力的なのですが、タダでも低い民生出力が4.5分の1になってしまいますのでゲイン的に不利です。一次側と二次側をひっ繰り返して1:4.5というトランスとして使う手もありますがインピーダンスが難しくなります。まああまりこだわらなくてもいいわけですが、このST-75はアイソレーションボックスを作ったときの音質評価で、順だと音が小さく、逆づかいではひずみが目立つと感じました。トランスが許容する以上の電圧になってしまうのでしょうね。
 

よってこの用途のトランスはST-71が適しているでしょうね、-10dB程度の民生出力を想定して、コネクター変換ボックスをつくることにします。
 
トランスってのは接続する機器によって特性が変化するようなのですが、これは最終的に測定してみないとわかりません。
特性を揃えるために固定抵抗を両側に並列に入れる方もいるようです。これは上級者の話。

私は測定する機器を持っていないため難しいことは考えず、聴感での評価に頼ることにします。
回路図は次のようにしました。

二次側センタータップでグランドに落とし、バランス変換。RCA・XLRともレセプタクルコネクターを用意。
アースループを切り離せるようにグランドリフトスイッチを付けることにしました。



これでいいと思いますが、自信なし。

抵抗の値はもう少し高いほうがいいのかもしれませんが、経験上、480-1Kの間にしておけば問題は起こらないように思います。

 
んで、組んでみました。ホールソーないんで、キャノンレセプタクル用の穴あけが疲れるんですね。
 
シールドの処理はアルミテープで施しました。見た目悪いですけど、理屈はこれでいいです。グランドが接続しないよう気を付けます。
また振動で動かないようにケーブルなど主要部分を接着剤で止めます。

ちなみにPA系につながる道具やケーブルにはケースアースをとらないことにしているので、電磁シールドの役目だけです。
アルミテープ、いらない気もします。

ケースは傷だらけ。でもアンバランス-バランス変換という目的は達しました。

不思議なフォルム。

もっと不思議なのはグランドリフトスイッチを入れても切っても音が出ること。グランドを共通化する必要がないってことなんですネ。

ここがトランスの面白いところです。

 
で、音ですが
ケーブルタイプとトランスタイプを聴き比べてみます。
曲はザビーネ・マイヤーのモーツァルト クラリネット五重奏曲。(CD音源をWAV化) 
 
閑話休題と視聴
カラヤンが無理やりベルリンフィル(BPO)に入れようとして拒否され、一躍有名になったザビーネ・マイヤーですが、そのクラリネットの音は明らかにソリストのモノ。多少の毒を持っています。
したがって「厚みと融合性に欠ける」というBPO側の評価は解りますが、晩年のカラヤンにとってはBPOオケの音に華がないということなのでしょうか。当時のBPOのオーボエ(ローター・コッホ)の音は際立っていましたし、フルートのジェームス・ゴールウェイしかりサックスのダニエル・デファイエといったカラヤンが認めた人たちはみなソリスト的な音を持っていましたね。

遠い国の出来事でしたが、私はザビーネ・マイヤーとは年齢も近しいし、BPO初の女性奏者になってほしいと思ってました。が、仮採用もされぬまま投票で否決となってしまいました。なんといっても帝王カラヤンの強引なやり方に団員がキレてしまったのが原因ですが、当時のBPOには、ずば抜けたテクニックで知られたクラリネットの名手カール・ライスターがいましたしね。なかなか実力と政治力ではかなう相手ではなかったでしょう。BPOの首席クラリネット奏者は二人。カラヤンからその一人に推されたのですから、まだ若い彼女的には大変なのではなかったかなと想像します。その騒動の後、録音されたのがこのCDということになってます。
この事件はかなり尾を引いて、カラヤンが制裁を科したことによりBPOの確執はますます深まってきます。カラヤンもBPOとの録音を控えるなどお互い距離を置いてしまいます。カラヤンは本気でこの若いクラリネット奏者に惚れていたのでしょうか?
残念ながらこの後のカラヤンとBPOの録音には名盤と呼ばれるようなレコードは存在しません。これは残念なことですね。
 
本来ステレオをモノにする場合は「モノラー」という機器を使用するらしく、仕組みは60度位相を回した回路を6段重ねるものらしいです。こういうモノを使うと出っ張りすぎるセンター音量を調整できるようですね。

360°位相が回ってもとに戻るのは解るのですが、それがどう結果になるのか私には意味不明です。たぶん聴かないと判らないですね。
モノラーは放送局にはあるでしょうけれど、一般には市販されていませんね。いずれ自作にチャレンジしたいです。

(株)アイコニック MN-22E 旧製品マニュアルより

「モノラー」を使わない単純なLR加算では、センターの音が6dB(電圧なので2倍)上がってしまうようです。
このことを念頭に視聴します。基本的にPA音声がステレオで送られてくる仕事はENGではないので(通常ステレオは別録り)、考えに入れなくてもよさそうですが。

結果:ケーブルタイプもトランスも民生レベルでは、さほど音は変わらないようです。

やはりセンターに集中するクラリネットの音が大きくキツイいですね。これは厚みと融合性がない、とベルリンフィルに評されたマイヤー自身の音質も影響しているかもしれません。でもステレオに戻して聴くとホッとします。しかし初期DENONのPCM録音なのでやはり音は硬めです。

普段はモノラルの声なのでセンターが強調される傾向はありがたいかもしれません。
カーブルとトランス、どちらもそうなのでこの出力レベルならトランスも合格ですね。
 


ケースの蓋をするとかなり無骨ですが、
これから使っていこうかと、思っています。
 

 
 
 
今回はここでオシマイ
 
その2へ 続く
 
2016年8月
 
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